地域の文化(町の中の演劇を)

 今回は、これまで数多く上演してきました中世説経節の物語群とは、いささか素材を異にするもう一つのユニークな系列に属する作品で、泉鏡花原作、寺山修司脚色による『瓜の涙─ある地霊の物語』が登場します。

 父親と心中したはずの美少女が、年を経ない以前のままで少年の前に現れた時、少年は心惹かれるままに自己のアイデンティティを失います。そして悪夢の中の出来事のように父親に変身して、その不可能だった恋を、時間の迷宮のなかで成就させるという、幻想的で壮大な愛のロマンが紡がれています。

 この鏡花、寺山の豪華な組み合わせは、演劇はもとより、文学、映画ファンにとっても、まさに垂涎のセッション、夢の作品といえるものであります。

 しかも、この作品の演劇化を、わが国で初めて実現したのは、遊行かぶきの前身でもあった藤沢演劇クラブであり、所も藤沢の天文館という小ホールでの1993年の公演でした。

 当時の劇評では、「寺山修司没後十年の記念公演の中では、群を抜く収穫」「第一等の出来栄え」などと激賞され(「ユリイカ」)、以来、何度かの東京公演を重ねた、いわば遊行かぶきの演劇的原点といっても過言ではない貴重な作品でもあります。

 実に二十四年ぶりとなる今回の藤沢での公演は、遊行かぶき二十年をまたいでの節目を飾るにふさわしい記念碑的公演でもあります。

 何といっても、地域の、土地に根ざした芸能というものは、直接につくり出す役者やスタッフたちだけではなく、熱い心でそれを楽しんでくださる観客の皆さまの参加を俟って、はじめて街の文化として成長していくものであります。まさに、遊行かぶきを〈街の中の演劇〉と呼ぶ由縁です。何卒、今後ともより一層のご理解を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

                                                                                         遊行舎・遊行かぶき実行委員会

遊行舎/遊行かぶき

藤沢を中心とする創作演劇集団です。

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